
むし歯は歯の病気ですが、歯周病は歯の周りの歯肉が腫れたり歯を支える歯肉や骨が溶けてなくなる病気です。歯を失う原因の多くはむし歯と歯周病が占めており、特に歯周病が原因で歯を失う割合が増えています。健康な歯を維持するためには、適切な指導のもとで歯の土台を守ることが重要です。
歯を「家」歯を支える歯肉や骨を「家を支える地盤」に例えてみましょう。どんなに立派な家でも、地盤が不安定ではせっかくの家も台無しになってしまいます。あなたの「家(歯)」はぐらついていませんか?
歯周病は、口腔内細菌叢が口腔衛生状態の悪化や免疫力の低下により口腔環境が乱れることで発症・進行します。さらに、この細菌叢は家族やカップルの間で共有する可能性があると指摘されています。実際、夫婦間で同じDNAをもつ細菌が発見されたという研究結果もあります。歯の健康を守るためには、家族全員での予防対策が重要です。
歯の表面にプラーク(歯垢)が付着し、歯周病菌が増殖することによって歯を支える土台である歯肉や骨を破壊し歯を失ってしまうこともあります。慢性的に進む病気のため、痛みなどの自覚症状がないまま進行することが多くあります。急激に進行する場合は痛みを伴う場合もありますが、身体の抵抗力によって炎症が停止し、痛みのない時期もあります。そのため治ったと勘違いしてしまい、知らず知らずのうちに進行してしまうことがほとんどです。
気がつけば歯を支えるものがなくなり、朝起きたら枕元に歯がポロリなんてこともあるのです。


むし歯や歯周病の放置は、口の中だけでなく、全身の健康に深く影響を与えます。言い換えれば、口の中を健康な状態に保つことで全身の健康を守ることができ、生涯、健康的な生活を送ることができる、ということです。 口は「災いのもと」であると同時に「生涯の健康のもと」でもあるのです。早期予防・治療に取り組み、日々のケアを大切にすることで、健康な生活を維持しましょう。
口の中に存在している細菌類(歯周病菌など)や炎症物質が歯肉の中の血管に流れ込んで全身に回ることで、さまざまな病気を引き起こすことがあります。
歯周病で炎症物質が多く出ていると、インスリンの働きが低下して血糖値が高くなります。糖尿病になると歯肉の血流が悪くなって血液が行きわたらず、歯周病菌を退治できなくなってしまいます。歯周病が悪化すると糖尿病も悪化し、糖尿病が悪化すると歯周病も悪化してしまうわけです。
メタボリックシンドロームの方に見られる、肥満、高血糖、高脂血症、高血圧のすべてに深く関連しているのが食生活です。バランスの取れた適切な食事を摂るためには、歯の健康が欠かせません。
また、脂肪組織で作られる「TNF-α(ティーエヌエフ・アルファ)」という炎症物質は、歯を支える骨を溶かし、歯周病を悪化させる作用があります。肥満の人は脂肪組織が多いためTNF-αが多く作られ、歯周病のリスクが上がり、噛みづらくなることで軟食傾向が強くなります。その結果、栄養不足になったりカロリーを摂り過ぎることとなったり、悪循環を生み出すと考えられます。
心臓で血液の流れを管理している内側の弁の部分が細菌感染する病気です。感染すると、弁膜が破壊されたり、心不全(心臓のポンプの作用がうまくいかず全身へ十分な血液が送れなくなってしまう状態)を引き起こします。この弁に付着する細菌として口の中の細菌が多く発見されています。
自己免疫疾患であり、本来は自分を守るべき免疫システムが自分自身を攻撃してしまう病気です。 原因は特定されていませんが、体のどこかに慢性炎症があるとそれが誘因となって免疫システムの暴走が起こる、というのが有力な説です。慢性炎症の1つに歯周病が挙げられ、これを治療することでリウマチが改善したとの報告もあるようです。
歯周病の炎症物質と出産に関わる物質には共通のものが多くあります。歯周病による炎症物質により、早産を引き起こしたり、低体重児出産が引き起こされたりすると考えられています。 また妊娠中は、女性ホルモンのバランスが崩れて口の中の細菌が増えやすく、つわりなどで満足にケアができなかったり、唾液の酸性度が高まったりすることでむし歯や歯周病が起こりやすい環境が作られます。
女性の場合は、閉経後に女性ホルモンのエストロゲンが減少することで骨を吸収する物質が増加し、骨粗しょう症がいっそう起こりやすくなります。歯槽骨の吸収が起こる歯周炎も、このエストロゲンの減少が関係する可能性があります。骨粗しょう症の治療の結果として、歯周病の進行を抑制する可能性があると考えられています。
高齢者や寝たきりの方などの飲み込む力が低下すると、歯周病菌などの口の中の細菌が唾液や食べ物と一緒に気管に入り込みやすくなり、肺炎が起こりやすくなります。口の中を清潔にして細菌を減らすことが肺炎を防ぎ、命を救うことにつながります。
口臭の原因として考えられるものには以下の3つがあり、歯周病によるものは病原菌が作り出す有毒ガスが原因と考えられています。
口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん、膵臓がん、胃がん、血液のがんとの関連が疑われています。熱い食べ物・飲み物の摂取が多く、口腔・咽頭・食道の粘膜が傷つくと炎症を起こし、それが発がんリスクを高めると言われています。
歯周病菌も粘膜の慢性炎症の原因の1つとの研究報告(国立がん研究センター研究所分子腫瘍学部)があります。食道がん患者のがん細胞から採取した検体を調べたところ、歯周病菌が認められたという報告もあります。
脳梗塞・心筋梗塞は、脳や心臓に栄養を運ぶ血管が詰まってしまう命に関わる病気です。歯周病にかかると歯肉の炎症部分から細菌が侵入して、血管を塞ぐ血栓が作られやすくなります。また、歯肉の炎症によって作られる物質が全身の血管の老化を進めてしまいます。歯周病の人は血管の病気になりやすいということがわかっています。
うまく噛めないと認知症になりやすいことがわかってきました。歯がほとんどなくて義歯未使用の人は、20本以上歯が残っている人に比べて、認知症のリスクが高くなることが厚生労働省研究班の調査などで報告されています。うまく噛めないことから脳への刺激が少なくなり、それが認知機能を低下させていると考えられます。
噛み合わせが悪いと、下あごがずれて、頭が左右どちらかに傾き、片方の肩が下がるなど姿勢が悪くなり、肩こり・背筋痛・腰痛、さらに不眠・生理不順などの症状が出ることがあります。また、きちんと噛める側の頬はふっくらし、噛んでいない側は吹き出物ができて頬がやつれ、左右非対称の顔になったという症例が報告されています。
たばこを吸うと毛細血管が収縮し、血流が悪くなります。歯肉が貧血を起こして、歯を支えている組織にも悪影響が出てきます。また歯肉の繊維が硬くなり、治療を進めても細菌の棲み家がなくならず、繁殖しやすくなります。さらに免疫力も低下し、細菌は増えやすくなります。
これは、歯周病を悪化させることにつながります。さらにたばこを吸う本人はもちろん、近くで煙などに含まれた物質を吸い込むことでも影響を受けます。禁煙することが歯周病予防・治療の第一歩です。
外部から侵入してきた細菌などの異物と戦い、体を守る働きを担うのが「免疫力」です。人によって強弱の差があったり、体調により左右されますが、免疫力が下がると体調を崩しやすくなります。口の中も同じです。免疫力が下がり細菌の勢力が上回ると、歯肉が腫れ、歯周病が進行しやすくなったり、口内炎や口臭などの原因になります。